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大阪テクニカルセンタレポート

2011年5月13日、コマツは創立90周年を迎えました。100周年を、そしてさらに未来を見据えて、「人と技術を未来へ」というコンセプトを実現するため、コマツ大阪工場に地上6階建ての大阪テクニカルセンタを設立しました。新センタでは、最新の情報通信技術(ICT)を活用して、海外工場の開発部門との連携を強化、さらなる開発力の向上やスピードアップの実現をめざします。創業以来コマツが受け継いできた、人と技術が生み出す建設機械の「品質と信頼性」。コマツ建設機械の開発の最前線を紹介します。

コミュニケーションの充実を追求した4つのコンセプト

開発本部建機第一開発センタ 企画管理グループ担当部長 中居 和夫
開発本部建機第一開発センタ
企画管理グループ担当部長
中居 和夫
開発本部建機第一開発センタ(兼)建機第二開発センタ 3DイノベーショングループGM 高田 徹
開発本部建機第一開発センタ
(兼)建機第二開発センタ
3DイノベーショングループGM
高田 徹

中居 「生産と開発の一拠点化」はトップ方針です。これまで開発の設計部門と生産の管理部門は別の建屋でしたが、大阪工場の管理部門が大阪テクニカルセンタの1~3階に、開発本部の設計部門が4~6階に配置され、同じ建屋内で業務ができるようになりました。生産と開発が名実ともに一体化したことで、非常に効率化されました。また新センタは、生産と開発の一拠点化を実現しただけでなく、コマツのグローバルな開発体制の中で、マザー開発センタとして位置づけられています。

高田 大阪テクニカルセンタ設立の話があったとき、設計者の立場からどのようなセンタにしたいのか、各設計グループから代表者を1人ずつ出して議論を行いました。私は事務局という立場で、議論を推進させてきましたが、最終的に決定したコンセプトは、マザー開発センタとしての「グローバルコミュニケーションの充実」でした。(1) 見せる開発センタ、(2) 現場と密接した開発センタ、(3) 人・環境に優しい開発センタ、(4) 人の絆を大切にする開発センタ、という4つのコンセプトを決め、それを実現するためには、どのようなハード・ソフトを用意するのか、という議論を行いました。設計者には自由で創造性をもったアイデアを出してもらいたいと考えて、間取りを工夫して小さな打ち合せコーナーやテレビ会議室を数多く設置して、自由闊達なコミュニケーションができるセンタを実現しました。

「フロントローディング」を全部門が共有し、推進

中居 開発部門では、価値ある製品をいち早くお客様に届けるため、「フロントローディング」という考え方を徹底して押し進めています。フロントローディングとは、製品開発や生産プロセスで、先工程(フロント)により重点を置いて前倒しで労力を投入し、後工程で発生するかもしれない設計変更や作り直しを減らすことで、品質向上や納期短縮を実現する活動のことです。開発部門はフロントローディングが有効な最たる部門で、いかに設計の早い段階で品質を作り込むかで、製品開発の品質や納期の勝負が決まります。

以前は試作機を作って、その試作機を対象に生産技術も技術確認も含めて、あらゆるものをすべて作り込むというやり方でした。でも今は、設計段階ですべての品質、性能、あるいは視界性、整備性、安全性などを、フロントローディングで作り込んでいます。

大阪工場内に建設された大阪テクニカルセンタ
大阪工場内に建設された大阪テクニカルセンタ

新製品の開発に当たっては、お客様の声をもとにした営業現場の要望をとりまとめ、製品仕様をある程度固めます。もちろんその時点から開発部隊も参加します。そして製品仕様に込められたお客様の声を理解した上で3DCADのモデルを作り込んでいくのが、設計部門の仕事です。さらに品質の作り込みは、製造部門や試験現場が持っているノウハウの活用が必要なので、これらの部門とも情報を共有して進めていきます。全員がフロントローディングの中で、同じ3DCADのモデルを見て品質も織り込んで設計していくのです。

試作機を作るのは工場の生産部です。生産部は試作機の3DCADのモデルがある程度できた段階から設計に参加して、「これは作りにくいからここを直してくれ」「こうすればさらに改善できる」というような提案をします。開発と生産がいっしょになって、生産のコンセプトも作り込むのです。フロントローディングに不可欠な開発部門と生産部門の情報交換は以前から行っていますが、今回この大阪テクニカルセンタに同居したことで、コミュニケーションがさらに良くなりました。それはお客様にお届けする製品が、ますます良くなることにつながります。

3DCADとバーチャルリアリティ装置

高田 コマツでは建設機械・車両の設計・開発システムとして、1996年から3DCADを積極的に導入してきました。2004年以降はすべての新機種開発が、3DCADを利用して行われています。一方で、開発する建設機械の視界性、安全性、整備性、小修理性の検討と実装評価を行うには、一般的なパソコンディスプレイ上での作業では、実機とのある程度のギャップが避けられませんでした。より大画面での立体投影によって、詳細に検討・評価できるシステムが求められていました。今回、新センタの設立にともなって大規模なスクリーンを使った新しいバーチャルリアリティ装置を導入して、開発力の向上とスピードアップを図りました。

建設機械業界で最大級のバーチャルリアリティ(仮想現実)装置
建設機械業界で最大級のバーチャルリアリティ(仮想現実)装置
面、左右面、床面の計4面のスクリーンと4台のプロジェクタ、モーションキャプチャ用の光学式カメラ8台を備えた、大規模
なバーチャルリアリティ装置。横4.6m×高2.9m×奥2.9mのスクリーンは、業界では最大級で、ハイブリッド油圧ショベル
HB205/215LCを実物大で投影できる。

コマツが3DCADを本格的に実用化したのは97年ごろで、日本でもかなり早かったと思います。私は3DCADに導入当初からかかわっており、ICTをいかに活用するかということを重視してきました。コマツはキーコンポーネントの内製化にこだわりがありますが、設計の内製化にもこだわります。外注設計を行わなずにすむように、設計者自身が3DCADとバーチャルリアリティ装置を使いこなせるよう、教育を実施しています。教育には環境が重要なので、トレーニングルームも充実しました。在籍する設計者ほぼ全員が、3DCADを使える環境で設計をしています。交流会などで他社さんと話しても、コマツほど設計者自身が3DCADを使いこなしている企業は少ないと思います。

3DCADそのものは市販品ですが、コマツでは使いやすいようにカスタマイズしています。その3DCADで100%設計しており、今回導入したバーチャルリアリティ装置では設計データがそのまま使えるので、特別なデータ処理が要らないわけです。3DCADの整備、教育の充実、それから今回のバーチャルリアリティ装置の導入ということで、設計サイクルの早さや評価の細かさという点で、他社を圧倒しているのではないかと思います。

― バーチャルリアリティ装置のメリットは何ですか?

高田 3DCADのデータを使って、視界性や整備性、安全性の評価もやってきました。この視界性や整備性、安全性は、パソコンの小さい画面で見ていても、なかなか判断しづらい。隙間が何ミリなのか、干渉しているかどうか、というレベルはパソコン画面でもわかるのですが、ではそこに手が入るのか、作業スペースとして足場が確保されているのかなど、特に人の動きに関わる部分は、実物大のバーチャルリアリティで確認します。中型建設機械なら、実物大の立体画像の中に入り込むことができるので、デザインをより詳細に検討して、運転席から前後左右の視界性や安全性を、まるで現実の試作機のようにチェックすることができます。さらに、実際に部品が完成してから形状を変更するとムダな時間がかかってしまうため、事前に徹底した検討を行う環境が求められていました。バーチャルリアリティ装置なら、ポンプやエンジンの点検も、まるで実物を扱うかのように確認できるので、整備性や小修理性の検討も正確に行えます。

また私たち開発部門にとっての意匠デザインは、視界性や整備性、安全性を個々に考えているわけではなく、それぞれが複雑にからんでいます。例えば視界をよくしよう、ということで広い視界のキャブをデザインした場合、安全性や整備性はどうなるのか。あるいは意匠としてデザイン的に成り立っているのか、それぞれが深く絡みあっている。商品開発の中で意匠デザインの方法を考えていく必要があるのです。

試作機で品質確認を行う試験センタ

開発本部試験センタ 大阪グループGM 落部 日出夫
開発本部試験センタ
大阪グループGM
落部 日出夫

落部 新商品の開発時には、試作機を2~3台作って、徹底的に試験を実施します。数千時間の実機確認を行い、さまざまな耐久試験を繰り返し、不具合を洗い出して改善を重ねていきます。

もちろん試作機をいきなり作ってしまうと、いろいろな問題が発生するので、その前に、まず3DCADやバーチャルリアリティ装置で十分なチェックをします。見られるものは全部見て、問題がないことを確認して、次のステップに進む。実機を作る前にいかに早く不具合を見つけるかに重きを置いています。早い段階で見て、対応できる箇所についてはそこでつぶす、ということです。

バーチャルリアリティ装置を入れたから、試作機を作らなくていいということではありません。実際に試作機を作ってみると、思いがけないことがある。実際にできたものを、きちんと見ないと、本当の誤りはなくならないのです。

― 試作機というのは量産機と、全て寸分違わぬものを組み立てるのですか?

中居 試作機は量産になる直前の最終形です。工場の生産部が、量産を意識しながら作ります。そのときの技術が量産機を製造するラインで使えることを確認していくのです。だから極力、量産機と同じ工程で作っていきます。型などは専用のものを作る必要があるので、量産機と比べて1台あたりのコストは非常に高くなりますが、お客様に提供してご満足いただける「品質と信頼性」のためには、絶対におろそかにできない工程です。

試験センタ
試験センタ
試作機で徹底的にデータをとる試験センタ

落部 試作機は、大阪工場内の試験センタに持ち込まれて、徹底的に品質確認をします。まずフィールド試験場にて、さまざまなセンサなどを搭載して、データの収集を行い、設計どおりの性能・耐久性があるかを評価します。次のステップとして長期間にわたる品質確認を行うため、大分県にある試験場に持っていきます。大分では、お客様の現場に近い環境で稼働させて、不具合が出ないか徹底的に確認します。開発・設計段階での品質の作り込み、試作機によるさまざまな品質確認を経て、量産OKとなります。このそれぞれの過程で、「品質と信頼性」を追求し、お客様によりよいものを届けるために何ができるかを考えるのが、コマツの開発現場です。

― 試験センタから、設計部門にフィードバックされる課題は何件くらいあるのでしょうか?

中居 報告書の件数ベースで、いい結果、悪い結果を全部含めて数百件です。フィードバックされる数百件の問題というのは、性能がよくない、不具合があるなどは当然ですが、ここの隙間が狭いんじゃないか、お客様が点検するときオイルレベルが確認しにくいのではないだろうか、といった細かいことも含まれています。こうした細かな修正ポイントを改めて開発部門が検証し、さらなる品質向上を追求していきます。量産のラインが立ち上がる前の最終的な情報の共有と個別の対応を経て、初めて製品設計が完成するのです。

高田 先ほど、バーチャルリアリティ装置の話が出ましたけど、3DCADを導入する以前は、どうしても試作前にわからない部分がありました。そのころ出てきた不具合には、部品同士が干渉してぶつかってしまう、という重大な案件が多かった。その場合には、部品を溶断して溶接し直すのですが、昔はそういうレベルのトラブルが試作ラインでは多くありました。油圧ホースの取りまわしなどの細かい修正では、最後の量産段階になっても、問題が残ることもありました。

しかし3DCAD、そしてバーチャルリアリティ装置ができてから、そういう重大な不具合はほとんどなくなり、サービス性の向上に寄与するほど細かい部分まで、事前にチェックが行き届くようになっています。

大阪テクニカルセンタの開設によって、生産と開発の一拠点化が実現、充実した試験センタとともに、一歩進んだ開発環境が整備されました。この環境を活用することで、お客様のニーズへの対応が迅速になり、きめ細かい配慮がされた製品をお届けすることができます。また開発現場から、コマツ製品の「品質と信頼性」をより向上させることにもつながります。

真に価値のある製品・価値のあるサービス・価値のある情報を総合的に提供し続けることで、コマツはお客様のベストパートナー、なくてはならない存在となることをめざしています。

これからもコマツはひたむきに取り組んでいきます。