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業界動向

建設ICT・情報化施工をご存知ですか!?

(大地 Vol.108 特別レポート)

 建設ICT・情報化施工という名称を、聞いたことがあるだろうか?

 調査・計画~設計~施工~維持管理(建設生産システム)の中に、コンピュータや通信技術を活用して、効率化・高度化など生産性向上に寄与する情報通信技術(Information and Communications Technology)を「建設ICT」、施工の中で情報通信技術を導入し、高効率・高精度な施工を実現していくことを「情報化施工」と定義している。当初はトンネル工事やシールド工事など特殊工事で、地山の状況を計測しながら施工する観測施工に始まった。近年、測量技術や制御技術が進歩して、油圧ショベルやブルドーザなど、汎用の建設機械を用いる一般的な土木工事や舗装工事にも、大規模現場を中心に導入が始まっている。

 今回は、建設ICT・情報化施工の研究や実証、普及活動などに積極的に取り組んでいる国土交通省 中部地方整備局 企画部施工企画課を訪ね、林利行課長、下村卓課長補佐のお二人からお話をうかがった。


情報化施工とは

高田 最近「情報化施工」という言葉を耳にしますが、工期短縮など生産性の向上を狙ったものですか?

下村 生産性だけに特化しているわけではありません。品質管理や安全管理、環境対策などもその目的です。建設業界は、全産業の約10%の温室効果ガスを発生させており、京都議定書の関係もあって、環境対策が必要です。
 そして安全性の確保も重要な課題です。たとえば建設機械との接触・下敷きなどの死亡事故防止のためにも、人と建設機械との事故をできるだけ少なくすることも目的です。
現在、建設業界でも熟練工は、団塊世代がメインです。50歳以上の年齢構成が、約40%といわれています。今後、熟練工が退職したら、品質が維持できるのか、という議論を経て、情報化施工ならば経験の少ない人でも経験を補って品質が確保でき、施工データも残ります。
 さらに工期を短くすることで、国民の皆様に対しても、環境に対しても貢献できる。そういった諸々の条件の下で情報化施工を推進していこうと、国土交通省の施策として打ち出したのが、「情報化施工推進戦略」です。

 図1をご覧ください。情報化施工は、あくまでも施工の部分を対象にしています。建設ICTでは、調査~設計~施工~維持管理を対象にした建設生産システム全般の効率化や高度化が最終目的です。

下村 ですから中部地方整備局としては「情報化施工」というより、「建設ICT」といわれたほうが、ありがたい。施工の前に計画や設計、施工に入ってから監督、検査、維持というふうに管理データを一元化していけば、より効率も上がります。建設ICTの一部に、情報化施工が含まれる、と捉えています。

高田 ICTを活用した情報の共有・連携とありますが、この情報とは図面など設計図書を示すのですか?

下村 共通仕様書や施工管理基準、施工記録や検査書類などのデータ全て含みます。データを基に維持管理までやっていくわけですから、例えば、工事が完了しその後土砂がどれだけ堆積したとか、どれだけ減ったとかの情報や、計画初期に使用した説明用データに新たな情報を肉付けして、詳細設計データとして活用する。また、設計情報と施工の情報を合わせて維持管理に使う。今までバラバラなデータを調査・計画~設計~施工~維持管理まで情報を一気通貫で持っていく。
 情報がぐるぐると回って厚みが増えてくる、というイメージです。

 将来的には、調査段階から情報の一元管理に取り組んでいきます。 しかし現在は施工段階で、情報化施工の取り組みが始まったところです。必要な建設機械はすでにあるので、施工用のデータを作り込み、実際に施工ができるかどうか、ということを確認しているのが、モデル工事の取り組み内容です。

建設ICT導入研究会

高田 建設ICTに取り組んで、何年目でしょうか。

 国土交通省から『情報化施工推進戦略』が出たのが、2008年の7月です。この年から、全国でモデル工事を始めています。
 中部地方整備局でも、生産性向上や行政サービスの向上、現場技術力の強化を狙って、発注者や受注者、開発者など関係者が集まって、2008年11月に「建設ICT導入研究会」を立ち上げています。この会の目的は、建設生産システムの中で建設ICTを実践して、生産性向上を目指していくこと。合わせて、技術研究や技術普及、現場支援を行うことです。

下村 この研究会は中部地方整備局が事務局となり、会員は全て一般公募により募集を行いました。今、研究会は産学官で構成され、2010年6月16日現在、317者が加入しています。会員は、団体、法人だけでなく個人、大学の先生もいらっしゃいます。
 会員は、プロジェクト会員とサテライト会員で構成されていて、技術普及チーム、現場支援チーム、技術研究チームなどに分かれて活動しています。プロジェクト会議では、プロジェクト会員の方々が指導的立場になり、サテライト会員の方々が意欲を持って勉強している状況です。サテライト会員が238者です。

高田 中部地方整備局が実施するということは、会員は中部地区の方が多いのですか?

下村 会員は全国で募集をしています。技術普及という面では、地元の業者が各地域にいらっしゃるわけですから、各地方整備局でもそれぞれ取り組んでいると思います。またこの会の活動費用は無償です。

 現在は、プロジェクト会員はもう締め切っていて、今はサテライト会員のみ受け付けています。

モデル現場

高田 中部地方整備局の「建設ICT総合サイト」が充実していますね。
 特にモデル現場の見学会は、リアリティーがありますね。

下村 このWebサイトは2年前の11月に立ち上げて、累計で65万アクセスと、かなり多数の方に見ていただいています。
 中部地方整備局の現場見学会は累計11回開催して、のべ1000名ほど参加いただいています。2008年度は1回、09年度は10回開催しました。10年度もモデル工事を予定していきます。

 モデル工事というと見学会のイメージが強いのですが、発注者と受注者の事前打ち合わせや発注処理をどうやって進めていこうとか、具体的な手続きの検討も行っています。

高田 発注者も受注者も、当事者にとって本当の現場を見学させていただくのですね。モデル現場の規模や種類は、何が多いのですか?

下村 工事の種類は、多岐に分かれています。河川、道路、砂防があり、だいたい万遍なく選んでいます。
 見学会ではまず、工事担当の監理技術者に、工事の中で苦労したことを話していただく。次に中部地方整備局が「建設ICTとは」というミニセミナーを行います。そのあと大部分の時間は、情報化施工を実際に体験できる「体験コーナー」がメインになっています。100名の参加者があれば3~4班に分けて、導入研究会のメンバーから提供していただいたICT機器を用いて、具体的に操作体験等ができます

高田 導入研究会の会員の方が、運営をなさっているのですね。

 はい。実際に建設ICTの良さを、体験してわかっていただくことが目的です。やはり情報化施工の経験者は少なくて、使ったことがない方が多いですから

実施事例

高田 体験コーナーではどのような内容が体験できるのでしょうか。一般的な油圧ショベルとかブルドーザでも、情報化施工ができるのですか。

下村 まずバックホウについては、マシンガイダンス(MG)です。例えば法面をある位置まで掘削したいとき、今ちょうどいいよ、というのが画面に表示されてガイダンスされます。ショベル位置が高すぎたり、低すぎたりしたときには、オレンジ色のランプが点灯するのでちょうどいいところで止め、そのまま掘ってという合図として緑色のランプが点灯しガイドします。そんなに難しいデータが入っているわけではありません。
 ブルドーザについてはマシンコントロール(MC)とMGの両方があり、MCは、ブルの排土板を完全に自動制御できます。

 中部地方整備局のモデル現場で実施された情報化施工の実施事例は多くの種類があります。

下村 情報化施工の効果がわかりやすい事例として、道路の締固め工事があります。何回もローラが往復しますが、どれだけ締固まっているのかを計測するのに、例えば砂置換法とかで、実際に1回1回試験するわけです。
 でもICTの場合は、その現場で使う土のサンプルで何回転圧したらいいのかということをあらかじめ試験しておき、転圧回数で管理します。

高田 テストピースみたいなものですか。

下村 そうです。GNSS でローラの軌道を記録すると、どの位置を何回転圧したかということが、すぐわかります。転圧軌跡の記録データから1回目は青色、2回目が黄色、紫色になったら5回というふうに表示すると、5回の転圧が必要であれば、全面紫色になれば締め固め完了です。
 その結果、検査する人がローラと同じエリアに何回も立ち入る必要がなくなり、安全性が向上します。

※GNSS(Global Navigation Satellite System):衛星航法。3つの航法衛星(GNSS用周回衛星)を捕捉して各衛星からの距離を得るとともに、4つ目の航法衛星からの信号で時刻合わせを行い、航空機などの3次元位置を得ることができる航法システム

対象業者、今後の展開スケジュール

高田 モデル現場の規模や対象者の範囲は、どうなるのでしょうか。

下村 基本的には、地元の中小企業が対象です。ICTを既に活用している大企業はありますので、地元の中小企業にも普及しようということが、情報化施工推進戦略の目的の一つです。

 今までは「レバー操作一つで」という熟練工のスキルと経験に裏づけされた品質があったが、そういった方が減ってきている。団塊世代の大量退職をむかえ、やはり品質確保は重要な問題です。一方で、建設業界に対して3Kのイメージを持たれている方もいるようですが、それを払拭することも、一つの狙いです。建設ICTのスマートさで、建設業界の印象を変える、コンピュータに慣れた若者にも親しみやすいイメージを与えていくことも推進戦略の一つの狙いです。

高田 今後の建設ICTの展開スケジュールをうかがいます。

下村 推進戦略の中にロードマップが示されているとおり、情報化施工の標準導入は2012年度の予定です。
 設計から維持管理まで対象範囲を拡大するのは、今後また何年か先になります。ただ手前の設計段階でこういうことをやっておくべきだ、という結論もある程度出るでしょうし、戦略的な維持管理をするにはどういうデータが必要か、というこということも考えたうえで、ロードマップのスケジュールでいきたいと考えています。

高田 2010年度から11年度にかけて、モデル現場で一生懸命に経験を積んで、理解してくださる方の人口を増やす。ここ2年で標準導入の基盤を確立しなければならない。これは間違いなくいえるわけですね。

下村 発注者はその間に、施工性などいろいろなデータ取りをしていきたい。従来の方法では何回も検査をしなくてはならなかったものが、建設ICTでもちろん負担は軽減します。データが残るので検査要領も監督体制も変わる。それに応じて職員も慣れていかないといけません。だから請負者も発注者側も、本当のモデル工事だと考えています。

高田 現在の建設機械はいわばロボットみたいなものだから、いろいろな記録を取ることができる。それらを活用すれば、施工や検査の品質も良くなるし、検査の頻度もすごく少なくなる。施工側の作業も楽になる。トータルでみると、発注者・受注者間で、計り知れないメリットがあるということですね。公共工事を取り囲む社会環境は、激変しています。地球温暖化や社会資本の補修・維持管理費の増大、団塊世代の熟練者が大量退職することなどを背景に、環境対策や品質確保、合わせて生産性の向上を果たさなければなりません。そして何より、施工現場で働く皆さんの安全確保が重要です。これらの課題を解決し、未来を切り拓くために、建設ICT・情報化施工は不可欠です。皆様の積極的な取り組みを期待しています!